美術館のはじまり、アートのはじまり
6月1日(土)13:00 – 15:00
講師:小澤慶介
近代社会の到来と美術館の成立からアートについて考えはじめます。1893年にパリで開館し美術館の母型となったルーヴル美術館からはじめ、1929年に開館しホワイトキューブの先駆けとなったニューヨーク近代美術館、そして1990年代以降のグローバリゼーションの時代に建てられたテートモダンや金沢21世紀美術館に至る流れを追い、制度との関係からアートを読み解きます。
芸術はいつ現代アートになったのか
6月15日(土)13:00 – 15:00
講師:小澤慶介
「現代アート」を支える思考や態度とはどのようなものかについて考えます。19世紀フランスのギュスターヴ・クールベやエドゥアール・マネは、絵画の約束事をどう書き換えたのか。そして、マルセル・デュシャンは芸術自体をどのように転回したのか。同時代の出来事にも目を配りながら、断絶と乗り越えをキーワードに自律的に進化する芸術を追います。
絵画のリアルとは何か−ロマン主義から抽象表現主義へ
6月29日(土)13:00 – 15:00
講師:沢山遼
19世紀前半のフランスの具象絵画から20世紀中ごろの抽象絵画へと至る芸術の道を「リアル」をキーワードに読み解きます。この「リアル」とは、目の前に広がる世界を忠実に写しとるということではなく、むしろ刻々と変化する時代の律動をとらえることといってもいいでしょう。ギュスターヴ・クールベやパブロ・ピカソ、ピエト・モンドリアン、ジャクソン・ポロックは、それぞれの時代や社会にどう反応して絵画を生み出したのでしょうか。
人間の外を表象する−ダダ、シュルレアリスムの芸術
7月6日(土)13:00 – 15:00
講師:沢山遼
代国家の形成と産業化の果てでおこった世界大戦は、人間の非理性と非合理性を明かしました。芸術はそうした時代にどう反応したのでしょうか。いずれも詩人によっておこされた運動は、それまでの枠組みを外れて思いがけない方向に展開してゆきます。フーゴ・バルやトリスタン・ツァラ、またアンドレ・ブルトンやマックス・エルンストなどの実践が照らし出すものとは?
ヨーロッパからアメリカへ移る前衛芸術
7月20日(土)13:00 – 15:00
講師:沢山遼
前衛芸術がヨーロッパからアメリカ大陸へと渡った2つの世界大戦の戦間期の動きを追います。ドイツのバウハウスで教鞭をとっていたジョセフ・アルバースやラースロー・モホリ=ナジは、アメリカのノースカロライナ州のブラック・マウンテン・カレッジで新たに教えはじめます。バックミンスター・フラーやマース・カニンガムらもそこに加わり、アートから建築、ダンス、文学まで総体的で実験的な芸術実践が試みられました。ロバート・ラウシェンバーグなどが学び、新しいアートを生み出した転換期を読み解きます。
写真術の到来と芸術の地殻変動
8月3日(土)13:00 – 15:00
講師:小澤慶介
19世紀の前半にフランスや英国で発明された写真術は、芸術だけではなく人間の世界を認識する方法を大きく変えました。何枚も同じイメージが複製されて人々に送り届けられるようになったとき、思想家のヴァルター・ベンヤミンはそこに政治性を見ました。絵画だけではなく、広告やジャーナリズムとどう距離をとりながら、写真家はその時代の律動を表したのでしょうか。20世紀はじめのウジェーヌ・アジェやアウグスト・ザンダーから現代のトーマス・デマンドや畠山直哉までの写真に触れながら考えを深めます。
イメージを疑え−映像文化とスペクタクルの社会
8月24日(土)13:00 – 15:00
講師:小澤慶介
19世紀末にリュミエール兄弟やエジソンによって発明された映像の技術は、映画産業や芸術だけではなく国家といった体制側にも受け入れられました。国家による戦時のプロパガンダや戦後のテレビジョンがイメージによって人々を支配するとき、芸術家たちはそうしたスペクタクル化する社会にどう立ち向かったのでしょうか。マーシャル・マクルーハンやギー・ドゥボールなどの考え、またナム・ジュン・パイクやブルース・ナウマンなどの実践に触れながら、芸術としての映像表現を考えます。
フォーラム1
9月7日(土)16:00 – 18:00
講師:小澤慶介
前半のレクチャーを振り返りながら、受講生が気になった作品や芸術家、専門用語、出来事などについてディスカッションをして、19世紀から20世紀前半にかけての芸術の流れを再確認します。
彫刻からインスタレーションへ
9月21日(土)13:00 – 15:00
講師:小澤慶介
台座の上に乗せられたり場所との関係で語られたりする彫刻は、20世紀に入ると次第に既製品などを取り入れられながらそうした約束事から解放されてゆくように見えます。19世紀末のオーギュスト・ロダンからはじまり、20世紀はじめの日用品を使ってオブジェを作ったパブロ・ピカソを経て、戦後に現れた彫刻という形式や概念や社会空間そのものを問うインスタレーションへと至る流れを概観します。
パフォーマンスが芸術になるとき
10月5日(土)13:00 – 15:00
講師:小澤慶介
自らの身体をメディアにして表現をすることについて、社会空間との関係で考えます。絵画の制作において身体をメディア化したジャクソン・ポロックやキャロリー・シュニーマン。偶然性や一過性を制作の要素として取り入れたアラン・カプローやアルベルト・グレコ。そして社会体制によって表現が制限されるなかでパフォーマンスをしたミラン・クニージャーク。芸術家が生きた時代や社会によってさまざまに変化するその動機と表現から、芸術としてのパフォーマンスに対する理解を深めます。
表現の自由はどこに−戦後日本の前衛芸術
10月19日(土)13:00 – 15:00
講師:小澤慶介
戦中・戦後の芸術家の活動から高度経済成長期の反芸術といわれた前衛芸術までを概観します。今ほどまでには美術館や美術制度が整備されていなかった1950年から1960年代にかけて、大都市だけではなく地方においてもさまざまな芸術家のグループがありました。新しい技術を取り入れて実験的な表現を追求した実験工房や関西圏で活動した具体美術協会、そして対東京を意識しながら活動をした九州派などに触れながら、前衛芸術が読売アンデパンダン展へと至るうねりを同時代の動きとともに考えます。
1990年代のアートと西洋的なものへの疑い
11月9日(土)13:00 – 15:00
講師:小澤慶介
1990年代を迎えるころ、共産圏が崩壊したりチェルノブイリ原子力発電所の事故が起こったりと、近代社会の神話が綻びはじめました。その一方で資本主義の世界化によってさまざまな言語や価値観が入り乱れ、それまでの「アート」を支えていた西洋中心主義は相対化さて問いただされるようになります。そうした時代をマウリツィオ・カテランやダミアン・ハースト、フェリックス・ゴンザレス=トレスなどの作品をとおして紐解きます。
国境を越えるアーティストと絵画の可能性
11月30日(土)13:00 – 15:00
講師:桝田倫広
英国の戦後の美術史の一端を繙きながら、移民または移民の子孫として英国に移り住んで創作活動をしてきたアーティストの絵画表現の変容について考えます。モダニズムへの同化の道をさぐった第一世代を経て、第二世代以降では自らの出自との関係を絵画作品へと展開するようになりました。それは、異なる文化や言語の間で揺らぐアイデンティティをとらえることであったということもできそうです。ルバイナ・ヒミットや、クリス・オフィリ、リネット・イアドム=ボアキエなどの絵画は、それをどのように表しているのでしょうか。
ローバリゼーションと多文化主義の時代
12月7日(土)13:00 – 15:00
講師:小澤慶介
1989年のベルリンの壁崩壊とともに資本主義が世界化するなか、文化の領域では欧米を中心に多文化主義が唱えられるようになりました。とはいえ、西洋と旧植民地の格差は消えるどころか温存されてゆきます。グローバリゼーションの幕開け、パリで開かれはじめての国際展といわれた「大地の魔術師たち」展を起点に、2002年のドクメンタ11や2008年の光州ビエンナーレなどに触れながら、国際展をとおして文化的な格差はどう問われ埋められていったのかについて考察します。
新自由主義の波と二極化するアート
12月21日(土)13:00 – 15:00
講師:小澤慶介
新自由主義という資本主義は、一方でアートを資産として扱いアートマーケットを活性化しています。そしてもう一方では、市場解放などの目的で戦争や紛争を起こし移民や難民などを生みつづけ、そうしたことへの抵抗や証言としての作品は国際展などで取り上げられています。これら二つの極は分けて考えることができないということを意識しながら、そうした現代の政治や経済の動きをめぐるアートについて、ヴェネチア・ビエンナーレやドクメンタ、光州ビエンナーレ、横浜トリエンナーレなどをとおして考えます。
フォーラム2
2025年1月11日(土)16:00 – 18:00
講師:小澤慶介
主に後半のレクチャーを振り返り、特定のメディアや表現形式には限定されず時代の変化に呼応しながら変容する現代アートについてディスカッションをして理解を深めます。